04.03 東京メトロ

 東京の地下を走る営団地下鉄には、ひとかたならぬ思い入れがあります。

 私が子どもの頃から住んでいる埼玉県の草加、越谷という地域は、東武伊勢崎線を使わなければどこにも行くことが出来ません。そして、その東武伊勢崎線が北千住駅で営団日比谷線と接続しているため、昔から何処に行くにもまずは営団地下鉄日比谷線を利用していました。

 北千住から先、東武線は浅草に向かうため、そちらを利用することはほとんどありませんでした。
 JRに乗り換えたければ上野か秋葉原。高校に行くときは茅場町で東西線に乗り換え、朝日ソノラマで仕事をするようになってからは、そのまま銀座へ直行。現在に至るまで、とにかく自分にとって地下鉄は東京における一番身近な足であり続けています。

 その営団地下鉄の社名がこの春、「東京メトロ」に変わりました。
 変わる以前の、正式名称をご存知でしょうか。営団地下鉄というのは略称であって、本当の社名は「帝都高速度交通営団」といいました。
「帝都」「高速度」「交通」「営団」──この漢字の羅列による物々しい響きが大好きでした。
 私が大好きな荒俣宏の『帝都物語』の中に(半ばフィクションを織り交ぜながら)東京の地下鉄の成り立ちが描かれています。東京に地下鉄を走らせた早川徳次という人は、欧州視察で目に留めた地下鉄を、未来の交通機関としていち早く東京に取り入れた、非常に先見の明のある人物です。映画では宍戸錠が演じていましたが、地下鉄銀座駅コンコース内にある早川徳次の銅像は、本当に宍戸錠に似ていて驚かされます。
 映画『帝都物語』の中では、帝都の地下に加藤保憲が放った式神に工事を妨害され、西村真琴博士が作り出した実在の人造人間「学天則」に助けを乞うというエピソード(その部分はフィクション)が序盤のクライマックスになります。また、地下鉄によって、加藤が利用しようとした悪しき地脈を断とうとしたり、考えようによっては、地下鉄自体が風水学上の、人が生み出した新たなる龍脈とも考えられ、SF、ファンタジーのモチーフとしても非常に魅力的です。もちろん『スピード』などの映画でも見られるように、アクションの舞台としても非常に優れた装置です。
 何を隠そう、私のシナリオデビューのきっかけとなった『ウルトラマンティガ』用の持ち込みシナリオの中に、地下鉄を舞台にしたエピソードがあり、その中で営団地下鉄の職員がGUTSのムナカタリーダーに「帝都高速度交通営団の早川です」と自己紹介するシーンもあったりして、とにかく私にとっては、東京の地下鉄は愛すべきモチーフであり、そのイメージはロマンとノスタルジーをまとった『帝都』という単語と切り離せないものでした。
 今回、その名称が変わってしまうのは残念でなりません。地下鉄を舞台にした怪獣映画のアイディアは、ウルトラマン抜きでも十分成立するものなので、いつか実現したいと思っています。そのときは、あえて「東京メトロ」ではなく、「帝都高速度交通営団」の地下鉄を舞台にしたいと思っています。


04.02 Canned tuna

 夜中にどうしてもお腹が空いてなんかたべたいな、というとき。我が家はとにかく買い置きをしない家で、ないときは本当になんにもなかったりします。そういう場合、最後の命綱になるのがこのツナ缶! 20数年来のハマファンとしては本来マルハのシーエースがお約束なのですが、この際はごろもシーチキンでも構いません。マヨネーズを乗せて箸でつつけば、しばし幸福な気持ちになれます。でも見るからに太りそうだな……(涙)。

 どうでもいい話ですが、川上哲治の赤バットと並び称された大下弘の青バットが、実は青ではなく緑だったって、知ってました? まあ野球ファン以外には興味のない話だとは思いますが、ちょっと考えてみると、私たちが子どもの頃はポピュラーだった「緑を青という習慣」が、最近廃れていることに気付きます。
 辛うじて信号機の緑を青という慣わしが残っているぐらいで、それ以外の場面で日常的に緑のことを青という機会はほとんど皆無といっていいのではないでしょうか。
 緑色のイモムシのことを「アオムシ」といったり、葉っぱがみずみずしく繁る様子を「あおあお」と表現したのは昔の人であって、今時は、誰がどう見ても緑色のものをわざわざ「あお」ということはありません。
 でも、大下弘が現役の野球選手だった頃までは、確実に緑のバットを「青バット」と呼んで差し支えない世の中だったのだなぁと思ったわけなのです。プロ野球みたいな娯楽とそれを伝えるマスコミという表現の最前線で、当たり前のように緑のものを青と形容して差し支えなかったというのは、すごいなぁと。
 だんだん自分が歳をとってきて、ふと使った言葉に対して年少者から「知らない」と云われて憤慨するようなこともあったりするわけですが(笑)、そうなると殊更に、今は使わなくなってしまった古い言語的な習慣を、ワザと使ってみようとなどと思ったりします。もう、明日からは緑のものは片っ端から青いといってやろうかなんてね。やりませんけどね(笑)。